エッセイ     梓澤和幸

発  見
(2007年7月2日)

  今日は、成年後見についてのお話をする機会をいただいた。

  小金井年金者組合、医療生協共催の講演であった。
  早春賦の唄が似合う季節や、ナラ、ミズナラ、カツラ、ツゲなどの広葉樹のもえる春の新緑に加えて、この頃、6月の、 明るい光の映える薄暮 (はくぼ) も季節の見所である。

  陽は落ちかかっていて、雲も空全体をおおっているのだが、空気が全体、下からもちあげられているような明るさ──。
  こういう季節の夕暮れには、ビルが建ち並び、車が行き交う都会さえ美しい。そこに街さえあれば。ましてや、地平線をいっぱいに山並みが占領する田舎の夕景、 薄暮に包まれると、心は内側からはずんでくる。
  今日の講演は、そういうくだりから始まった。

  もう一つのエピソードも加わった。
  今日、ある小学校をたずねた。大きな画用紙に書かれた子どもたちの絵がはられていた。
  一枚の絵は、画面の98パーセントまで見る側の胸をたたいてくるような激しい赤の色で占められていた。消防車を校庭に呼び入れて、子どもたちが写生した絵だという。
  私は何回も、何回も、くりかえしその絵を見、赤という色彩に揺さぶられ一心不乱に、力強いタッチでクレパスに力をこめる子どもの魂の動きを思った。

  講演は、三つの問題を解いていただくことから始まった。
  日頃取り組んでいる事件で、一軒のご家族にどれほどの資産があるか、人が一生働くと、 東京ではこれくらいの資産をもっている人は珍しくないですね……という例をあげて話した。
  するとすかさず、最前列の女性が「うちはそんなにありませんよ」。会場からどっと笑い声が上がった。
  そうですね、それではもっと普通のお話をしましょう、と話は進んだ。ロースクールの授業と同じで、聴衆がこの場所で知識はもちろんだが、 それをこえる何か、何かを発見する、そういう気付きの場を作れるか、というところが、ソロに似た講演のトライアル(試練)なのだろう。
  節ごとに話を切って、フロアに質問と発言をお渡しした。

  知識をこえて、お伝えしたかったことといえば──。
  晩年という言葉は、どこかネガティブなひびきをもつ。
  しかし、人生のこの時期、そして、死ということは、人生にとってもっとも大事なことなのではないか。
  これから中心にお話しする任意後見契約というものは、自分が元気なうちに晩年の設計図を描く大切な仕事である。
  一瞬一瞬のできごとではなく、一枚一枚の写真や絵やエッセイという作品でもなく、私の人生が作品だ、といえるような、そんな一生を完成したい。

  そんなメッセージが伝わり、会場は一種満ち足りた空気が流れた。
  法律の講演をこれからはこうやって行こう。

  おわったあと楽しかった、といわれるように。
  ふと労働法の松岡三郎先生のお話を思い出した。聴衆は抱腹絶倒。笑わないときは一瞬もないといってよい。

  20年前に聞いたときは、お話の技術としてすごいと思ったがそうではない。
  聴衆とともにこの瞬間を生きるという精神。それが場をつくり、魅力を作るのである。
  聴衆は講師への親近感というより連帯感、友情のようなもの、さらに言えばああ、いい話を聞き、いい人に出会ったなという至福のときをもつ。

  「いくつになっても、いつまでも、修行はつづくな、」 という独特の義父の言葉がよみがえる。
  「そうよ、そのとおりよ。」 という亡き母の言葉も聞こえてきそうだ。



レジュメ 成年後見 そのおおよそと 考え方

  自己紹介

  はじめにいくつかのドリル

  第 1問
  ある地域に一人暮らしの85歳の高齢者がいました。
  年金でくらし、預金もそこそこの金額はある。
  どこで聞きつけたのか、投資ファンドのセールスマンが訪ね、いったんは1000万円の損害をこうむり、落胆していました。
  認知症もはじまっているようでどのようにだまされたのかもよく説明できない。また被害に会うかもしれない。近所の人が心配して相談にのったが、 親戚の所在も実はよくわからない。助けてあげたいがどうしたらよいか。

  ヒント 誰が成年後見の申し立てをすればよいのでしょうか。

  ご自分の答え

  講師の話しを聞いてからの答え

  第2問
  90歳になった父と同居するようになったAさんの悩みは父の預金の所在が正確につかめないことだ。記憶が定かでない。
  兄弟からは資産を独り占めにするのではとあらぬ疑いもかけられる。
  介護の契約もむすびたいし十分にお金もかけてあげたい。
  近所の金融機関に代理で聞くと、おたくに出入りしているので精神症状が十分出ないことがわかるので答えられないという。
  どうしたらよいか。

  手続きは。相談先は。

  成年後見開始の申し立ては誰がすることができるのか。

  ご自分の答え

  講師のお話を聞いてからの答え


  第3問 私は事業を成功させて十分な資産を蓄積したといってよい。いまも充実した毎日である。いま私は年齢78歳だ。
  だが一人暮らしである上、子どもも兄弟もおらず、遠縁の親戚がいるだけだ。つきあいもそうあるわけではない。
  今はよいが、体がきかなくなり、精神的にも十分な認識ができなくなったとき、介護保険の申請をしたり、介護つき老人ホームの入居申請をしたりするとき、 誰に頼んだら良いか思案に暮れる。
  私の死後、葬儀の手配や入院先の費用の整理も誰にどのように頼めばよいのか。

  ご自分の答え

  講師の話を聞いてからの答え


第 1 法律による後見制度 (法定後見制度)
  以前は禁治産、準禁治産者宣告という制度があったが、ことばの響きもよくなく制裁のような感じがありました。
  法律による後見制度では、物事の理解の能力に不足や問題が出てきた人々 (事理弁識能力に問題がある人々) も取引の当事者になれるよう、 また不当な取引の犠牲にならないようこの制度が登場しました。

  いまでは家庭裁判所への申し立ては15,000件を超えている。

  後見、保佐、補助という制度とそれぞれの違い

  事理認識能力の程度による

  1、申し立ての権利者
  本人、配偶者、親子、兄弟 おじおば 甥、姪と配偶者、いとこ、保佐人、補助人

  市町村長、区長、に申し立て権があるときとは。

  2、申し立てに必要な書類――書式参照
  申立書 申し立て事情説明書 後見人事情説明書 診断書、戸籍謄本 とくに医師の診断書が重要
  審判の進行

  3、成年後見の影響(効果)は何か。
  @ 被後見人の取引は取り消せるということ (日常の買い物は有効で取り消せません。)
    なぜ?
  A 後見人は包括的代理権をもつということ

  4、保佐、補助に適する事例とは。
  保佐の場合の代理権付与の手続き
  補助の場合の同意権付与の手続き

第2 任意後見制度

  いま精神的認識能力に問題ないとき。
  あとのことを考えて、誰かに頼んでおきたい。しかも自分がわからなくなっても不正をしないよう監督してもらいたい。

  どうすればよいか。
  公正証書で任意後見契約を結ぶ。

  任意後見制度は自分がまだ完全な意思能力があるときにも、やや軽い認知症が出ているときにも締結できる契約である。
  頼む内容は自分の選択でできる。
  たとえば、財産を処分して施設入居の手続きをとってもらうとか、介護センターとの契約を締結してもらうこととか、地代、家賃の受領、預金の払い戻しなど。
  また死後の葬儀の手配、入院先の費用の処理の依頼も同時にすることができる。

  公証役場でつくる任意後見契約公正証書を結ばなければ効力がない。
  後見人になってくれる人を頼む。
  弁護士や司法書士がよいと思われる。
  依頼する私に財産問題を理解する能力が十分でなくなったときは、家庭裁判所に本人、後見の依頼をうけた後見人、親、子、配偶者、兄弟姉妹、おじ、おば、 いとこまで(4親等以内)の申し立てで後見監督人を選任してもらう。

  第3問の答えはこれです。
  ただ、注意が必要なのは認知症の症状がある程度進むと、この契約はできなくなることです。

  健康なうちに、普通の財産管理委任契約とこの任意後見契約を組み合わせるのもよいでしょう。
  (また公正証書遺言をつくり任意後見人と同じ人を遺言執行者として選任しておくこともあり得ます。)
  このようにして、生前から死後までの整然とした財産管理の道筋をつけておくことができます。
  リビングウイル(延命だけの治療の拒否に関する意思の表明)に触れておきます。
  これは任意後見契約にもとづく後見人の意思表明ではできません。

  私の父親は事業に成功し、不動産ほか多少の金融資産もあるのですが、最近体調をこわしています。
  健康なときは私たち弟、妹もあうことができたのですが、このごろ兄が電話にでても父に取り次いでくれません。前に父にあったとき、 兄が弟預金をおろして海外旅行や自動車の購入につかってしまうと愚痴をこぼしており、最近父の認知症が進んでいるとすると心配です。
  成年後見の申し立てはできますか。医師の診断書はとれませんがどうすればよいか。

第3 後見登記制度のこと

第4 制度の問題点

第5 相談先 弁護士会、司法書士会、など

第6 映画 「明日の記憶」 渡辺 謙 主演 若年認知症のこと
  成年後見の考え方
  年齢を重ね、精神的認識能力に衰えが出ても、一人の尊厳ある存在として尊敬される。
  そして社会に参加する市民として対応される。

  これから後見制度のむかうべき方向は?

    問い合わせ先  東京家庭裁判所 03-3502-8311
              東京家庭裁判所 八王子支部 042-642-5195