エッセイ     梓澤和幸

箕輪さんへの手紙 (2010.11.5)
梓澤和幸

  9条改正反対署名を一人で39300筆集めていて歌人でもある箕輪喜作さんが 『9条おじさんが行く』 という本を発刊されました。 (新日本出版社 2010年8月)
  署名の話だけでなく、幼少年時代、雪深い北陸の山間地での用務員、農村労連の活動、その体験の中で出会った小中学生、 若き教員たちの物語が出てきます。読んでゆくうち勇気が出てくる本でもありました。
  本格的な書評を書きたいのだが遅れてしまうのももったいない。 そこで箕輪さんに書いたお礼の手紙のうち私信にあたる部分を編集してこのHPに掲載します。


  拝啓
  暑い夏が過ぎ、はや歳末も間近となってしまいました。色々なメディアでご活躍の程うかがっております。
  蓑輪さんが酷暑にもかかわらず体調に気を付けられ、九条署名を次々と拡げられているのに、この夏の暑さにはすこしまいりました。
  『“九条おじさん” がゆく 署名は愛だ』 のご著書を8月にいただきながら御礼のご挨拶をすることが遅れてしまいました。誠に申し訳なくお詫び申し上げます。 最近、涼しくなってからご著書を拝読させていただきました。非常に励まされる素晴らしい本だと感じました。
  私が深く心を動かされたのは学校用務員というご職業の場にあって、沢山の生徒さんや教員を励まされ、育て上げてきたということです。 ご著書にありましたようにいわゆる社会的地位ある人から、「格が違う」 というような心無い言葉をむけられる体験をされますと、 どちらかというと世間を狭くしがちな方が多いのに、蓑輪さんの場合、逆に逆境の体験が宝となって、人生を輝かせているということが私にとって、 とても大きな力になりました。
  弁護士という職業は外科医や精神科のお医者さんのように、その日も危ないというような人と共に歩み、困難を打開して、 その先の人生を切り開くという宿命を持っております。
  昔、ある武将は天に向かって、「我に最大の苦難を与えられたし」、と祈願したそうでありますが、艱難汝を玉にす、 という言葉があるように蓑輪さんの少年時代、青年時代の困難はそれこそ蓑輪さんという大器を育てたのだなあと深く深く感じ入らせていただきました。 加えて、知らない人に訴えをするということが、私共、学生運動時代からの経験を思い起こしても思い出されますのに、 蓑輪さんの場合、それを生きがいに変え、喜びとし、若者への愛情の表現とまで高められていることもまた、私共への叱咤激励となります。
  私は法科大学院で学生を育てる立場にありますがこの本を読んで後、20代への若者への自らの視点が暖かく和らぎ、 そうすると学生の方からもそれに答える視線が返ってきていることに気づかされました。 近いうちに学生にこの本のことを、そして、“九条おじさんの日々” のことを伝えたく存じております。
  どうぞいつまでも小金井の自然の中で、明るい空の下で、若者たちに希望を語り続けていただきたくお願い申し上げ、またご健康をお祈り申し上げております。
  蓑輪さん、本当にありがとうございました。

     法科大学院のある甲府にて
敬具

     2010年11月5日
梓 澤  和 幸

     蓑 輪  喜 作  様