言論統制    梓澤和幸


個人情報保護法案を廃案に(2002年7月5日)


  メデイア規制法というだけでは足りない。市民的自由の抑圧につながる法案の危険性について考えてみたい。

1、規制の主体──公安委員会
  内閣総理大臣は、特定の個人情報について、主務大臣として国家公安委員会を指定できる (法案41条) 特定の、としているが何ら縛りはない。国家公安委員会といえば警察庁を所轄する官庁である。
  主務大臣の権限は、政令によって地方公共団体の長その他の執行機関が行うことができる。(56条) ここから都道府県公安委員会が除外されていない。主務大臣の権限を政令で職員に委任できるとする規定 (57条) とセットすると末端の警察組織(警察官)が主務大臣の権限を行使する可能性がある。

2、あらゆる団体、個人が規制される
  法案で厳しい義務が課される個人情報取り扱い事業者とは誰のことか。法案作成に関与した藤井昭夫個人情報保護担当室長は、非営利の団体、個人を含むと繰り返し言明している。それは消費者契約法など他の法律に出てくる「事業者」概念の政府解釈と一致している。
  かくして、生協、団地自治会、弁護士会、法律事務所、病院、労働組合、などあらゆる結社は、みな個人情報取り扱い事業者とされ、主務大臣の監督の下、厳しい義務を負わされる。個人情報の目的外利用、同意なき第三者への提供、不適正取得などの禁止、正確性保持義務、本人の請求に基づく個人情報の利用停止などである。(22ないし34条)

3、命令違反罪の威力
  主務大臣 (前述のように、公安委、警察が除外されていない) は 、市民団体、個人に対し、個人情報 (つまり名簿、メーリングリストなどのことである) の取り扱いに関し、報告を求めることができる。(37条)
  また違反行為の中止命令を出せる。緊急とされるときは勧告ぬきで抜きうちだ。(39条3項) 報告義務違反は30万円以下の、違反行為中止命令違反は6ヶ月以下の懲役または罰金である。(62条、61条)主務大臣による報告請求も、違反行為中止命令も従うまでは実行行為が継続しているから,やろうと思えば、裁判所の令状ぬきの現行犯逮捕、強制捜索もできる。(刑訴法213条、220条)

4、主務大臣の審査権限には適用除外はない。
  主務大臣が審査し、もっぱら報道目的でない、と認定すれば、放送、新聞などの報道機関にも義務規定は適用される。(55条1項一号) 客観的事実を事実として不特定多数に知らせること、または論評することが報道だとする政府答弁書 (2001年7月23日) を前提とすれば主務大臣の審査はニュースの真実性判断にも踏み込みかねない。
  桶川ストーカー事件の警察の失態をつく報道や政治家の口利き疑惑報道、女性スキャンダル報道が標的とされ、それがもっぱら権力批判、中傷、ポルノ目的などとされれば適用除外はとぶ。(55条1項一号)
  これは言論の死だ、とする城山三郎氏の言葉は人々の胸をうった。それは真実を射ていたからである。