言論統制    梓澤和幸


個人情報保護法案の与党修正案について@(2月12日)

  1月24日の朝刊各紙は個人情報保護法案の政府要綱案の骨子を報道した。
  基本原則の削除が法案の報道規制部分を削除したことになるという論調である。
  これは、個人情報保護法案の研究不足である。
  もともとの法案の危険な要素は、実は基本原則にではなく、個人情報取り扱い事業者の義務規定にある。
  基本原則が削除されても、この規定は削除されていない。
  個人情報取り扱い事業者には、営業者のみならず、非営利の市民団体、個人も含まれる。このことは、内閣官房個人情報担当室の藤井氏が繰り返し言明してきた。
  従前の個人情報保護法案によれば、個人情報取り扱い事業者には、目的外利用の禁止がかかる。個人情報の取り扱いについての安全注意義務や第三者提供の禁止規定もある。
  国家公安委員会を含む主務大臣は、市民団体、個人、企業に対して、個人情報の取り扱いに関して報告を求めることができ、報告にうそがあったり、報告をおこたったものには刑事罰が課される。
  個人情報の取り扱いにより、個人の権利が侵害されるおそれがあるときは、個人情報の利用中止命令も出せる。(39条) 緊急の場合には勧告ぬきでも命令を出せる。(同第三項)
  この違反にも処罰 (6ヶ月以下の懲役または罰金) が予定されている。
  韓国でノムヒョン大統領が当選したが、支持グループのインターネットによる活動が注目されているという。対立候補には東亜日報、朝鮮日報などの大メデイアがついたのに、ノムヒョン候補側は民衆の組織するインタ−ネットの力で勝ったというのである。
  反グローバリズムの国際的な運動の例も伝えられる。
  個人情報保護法は民衆の持つネットによる伝達の網を一網打尽に抑圧する力をもつであろう。メーリングリストや、ホームページは個人情報の塊であり、個人情報の目的外利用や、第三者提供の口実をつければ、そして報告義務の運用によって、主務大臣はいくらでも民間への干渉ができるのである。
  市民の立場からみると、与党案はまったく安心できない。
  では報道にとってはどうか。
  報道には除外規定があり、フリーのジャーナリストや、表現者も適用除外になったこと、報道の定義が、条文上明確にされたという。
  しかし、個人情報の利用について、それが報道目的であるかどうか、主務大臣が審査する権限はまったく弱められていない。
  与党の幹事長の女性問題が週刊誌によって繰り返し報道されて話題となった。総理大臣の青年時代の検挙歴を報道した雑誌もあった。
  これらの記事が報道目的かどうか、事実を客観的に不特定多数に伝達する行為 (新法案の条文) 否かの審査権限を主務大臣が握るのである。そして報道目的でないと判断すれば、主務大臣は個人情報の利用中止を命令できるのである。(法案39条)
  これは検閲である。
  メデイアの帰趨が注目されている。
  メデイアが基本原則削除で助かったということで批判の矛先を鈍らせるのか。
  もしそうであれば、一般市民の不信感は避けられない。
  また自身の自由にも鈍感であったとの後世の批判も避けられないであろう。