言論統制     梓澤和幸


個人情報保護法案の与党修正案についてA(2002年2月12日)

1、個人情報保護法案について与党修正案が出されており、マスコミの軟化の雰囲気が伝わってくるが、私は異なる評価をもつ。
  与党案の内容と評価は次の通り。
   基本原則が削除された。
   適用除外の拡大、文筆家、フリージャーナリストに。
   内部告発には義務規定を適用しないという。
   報道の定義の確定をするという。
   市民的自由の侵害の禁止―― 一般条項として。
   メデイアを中心にして、表現行為に一定の配慮をしめしている。しかし個人情報取り扱い事業者に義務規定を課し、主務大臣に強大な権限を与える構造はかえていない。
   つまり、法案の毒は一切取り除かれていない。

2、もともとの法案の危険性は、個人情報取り扱い事業者の義務規定にある。基本原則が削除されても、義務規定には変更はない。

3、個人情報取り扱い事業者には、営業者のみならず、非営利の市民団体、個人も含まれる。このことは、内閣官房個人情報担当室の藤井氏が繰り返し言明してきた。最近も、個人情報保護担当室を訪問してそのことを確認した。
  「事業」 とは、 「一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」 であり、営利の要素・目的を必要としない、という。(経済企画庁国民生活局消費者行政第一課編 「逐条解説消費者契約法」四二頁) このように事業者という言葉はもともと、非営利の団体個人を除くものでないのである。

4、個人情報取り扱い事業者には、法律事務所、弁護士会も含まれる。(解釈と個人情報担当室の確認)
  イ、法律事務所、弁護士会に主務大臣ができる。弁護士自治との関係で問題にすべき。
     本来の業務との関係では、主務大臣は法務大臣となるのではないか。
  ロ、顧客名簿の利用、管理についての干渉の可能性
  ハ、弁護士による事件の事実関係の調査は、個人情報に深く立ち入ることになる。被調査者から、義務規定たとえば、目的外利用、情報の第三者提供の禁止、をもちだされると、極端な困難が生ずるのではないか。
    証拠保全、弁護士会照会請求、戸籍取り寄せ、住民票、とりよせ等の初歩的な調査、のほか刑事事件、民事事件の調査などへの障害を検討する必要あり。

5、市民団体のホームページ、メーリングリスト、名簿への干渉
  学問研究、表現への干渉の危険は変わらない。

6、個人情報の保護と市民的自由とは、市民の自治により、調整、自主規制によって解決すべきなのに、主務大臣が強権的に干渉し、監督するという法律の構造に問題がある。分野ごとの自主規制機関や第三者機関の調整機能を発展させるべき。
  弁護士会も率先して、自主規制のガイドラインや自主的な苦情処理機関を設けるべきか。

7、修正前の個人情報保護法案によれば、個人情報取り扱い事業者には、目的外利用の禁止がかかる。個人情報の取り扱いについての安全注意義務や第三者提供の禁止規定もある。
  国家公安委員会を含む主務大臣は、市民団体、個人、企業に対して、個人情報の取り扱いに関して報告を求めることができ、報告にうそがあったり、報告をおこたったものには刑事罰が課される。
  個人情報の取り扱いにより、個人の権利が侵害されるおそれがあるときは、個人情報の利用中止命令も出せる。(39条) 緊急の場合には勧告ぬきでも命令を出せる。(同第三項)
  この違反にも処罰 (6ヶ月以下の懲役または罰金) が予定されている。
  これはそれぞれ、命令に違反したとたんに実行行為に着手したことになり現行犯になるから令状なしの逮捕、捜索が可能だ。
  現にドメステイックバイオレンス防止法による裁判所の家庭退去命令で、命令に従わなかった男が現行犯で逮捕された例があるのである。(2002年9月4日 毎日新聞)

8、報道にとってはどうか。
  報道には除外規定があり、フリーのジャーナリストや、表現者も適用除外になったこと、報道の定義が条文上明確にされたという。これは、報道規制の心配をとりのぞいたことになるのか。
  個人情報の利用について、それが報道目的であるかどうか、主務大臣が審査する権限はまったく弱められていない。
  与党の幹事長の女性問題が週刊誌によって繰り返し報道されて話題となった。総理大臣の青年時代の検挙歴を報道した雑誌もあった。
  これらの記事が報道目的かどうか、事実を客観的に不特定多数に伝達する行為(新法案の条文)か否かの審査権限を依然として主務大臣が握るのである。そして報道目的でないと判断すれば、主務大臣は個人情報の利用中止を命令できるのである。(法案39条3項)

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