−ネット規制という表現の危機−
インターネットを国民の100パーセントが利用し、快適な生活を送れるという理想社会の構想をユビキタスネット社会というが、
その喧伝のかげで表現の自由の危機が忍び寄っている。
総務省総務審議官の設けた 「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」 (座長堀部政男一橋大学教授) は二〇〇七年一二月に最終報告書を発表した。
その中にはネット情報の事前規制と、刑罰の検討という重大な問題が含まれている。
1、ネット情報の事前規制
政府、公権力は、自分たちを批判する言論と情報を忌避し、常々その規制をねらってきた。最終報告書にはネット上の情報について、
違法有害情報の規制という口実で、(1) 業界団体の自主規制による削除、(2) レイテイング、(3) フィルタリングなど事前規制の仕組みがもりこまれた。
レイテイングとは、ネット上の情報のうち重複度が少ないスクープ情報や少数派の発信を排除する手法であり、
(3) のフィルタリングとは有害とされる情報をあらかじめ検索できないようにする。
都合の悪い情報にフィルター (おおい) をかけ、不特定多数の視聴者が検索を通じて特定のホームページやブログにアクセスできなくするインタ−ネット上の仕組みである。
公権力にとって都合の悪い情報について、(1)(2)(3) 組み合わせを公権力が恣意的に乱用すれば、ビラマキやデモに警察力をもちいたむき出しの弾圧を加えなくとも、
市民の発信する公権力批判を封ずることができる。ネットはマスメデイアも使用しているから、新聞、テレビ、雑誌等への影響も大きい。
最終報告書は、名誉毀損やわいせつにあたる違法、有害情報の発信を停止するという目的をあげ、かつ業界の自主規制という間接的な形をとって批判を回避しつつ、
この仕組みを盛り込んだ。
2、刑罰の検討とは何か。
韓国ではネット上の誹謗、中傷で女優が死亡したことを契機に、保守与党ハンナラ党の一部議員が、サイバー名誉毀損罪、
サイバー侮辱罪を刑法に盛り込む法を提案した (読売新聞十一月四日)。2チャンネルなど日本でもネット上の中傷の評判はよくない。
最終報告書の構想もこうしたネット表現へのマイナス評価に乗じて打ち出されている。
刑罰が導入されると、表現の分野に警察、検察など捜査陣が差押、逮捕などの強権を発動することになる。
3、ねらい
アメリカ大統領選のオバマ候補の勝利の要因の一つに、ネット、携帯などウェブサイトの武器を駆使したことがあげられる。
三百万人から七億ドル (七百億円) の小口カンパがウェブを通じて集められた、という (東京新聞十一月十一日)。
イラク開戦時に、ロンドン百万人、パリ五十万人、韓国十万人と集まった反戦デモは、ネットによって組織された。日本では、二万人と多くはなかったが同様である。
2008年10月26日麻生首相の 「豪邸見学行進」 での逮捕者の早期釈放も、不当性を明らかにする現場映像を配信したユーチューブへのアクセスが20万をこえた
(東京新聞十一月十三日) からとの指摘がある。
ネットの持つこうした社会変革の力を公権力が畏怖することはありそうなことだ。
二〇一〇年には、最終報告書の構想は法案化される。差し迫った表現の危機への対応が要請されている。
家教連家庭科研究 2009年2月号 掲載
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