東京経済大学講義レジュメ 梓澤和幸


今年度の冬学期より東京経済大学にて講義を担当することとなりました。
以下、講義にて使用したレジュメを掲載いたしますので、是非ご参照下さい!

〈目次〉
1 弁護士って何だろう?―弁護人依頼権 (2004年10月25日)
2 ポリストライアルをどう防ぐか?―弁護人依頼権 (続) (2004年11月08日)
3 憲法はなぜ人権を保障するのか?―立憲主義 (2004年11月22日)
4 表現の自由の歴史と現在 (2004年11月29日)
5 在日外国人 (2004年12月13日)




憲法はなぜ人権を保障するのか? (2004年11月22日)
── 自民党論点整理をきっかけに


1、 「論点整理」 の特徴
  憲法を国民の行動規範としていること ── 憲法学の基本との相違
  英語にして世界に配布したい。
  自民党の憲法調査会内の憲法改正プロジェクトチームによる 「論点整理」 (2004年6月10日) には、次のような記述がある。

  「総論」 の 「三、今後の議論の方向性」 より
憲法を論ずるに当たり、まず、国家とは何であるかについて、わが党の考え方を明らかにし、国民各層の理解を深めていく必要があると思われる。 次に、憲法の意義を明らかにすべきである。すなわち、これまでは、ともすれば、憲法とは「国家権力を制限するために国民が突きつけた規範である」ということのみを強調する論調が目立っていたように思われるが、今後、憲法改正を進めるに当たっては、憲法とは、そのような権力制限規範にとどまるものではなく、 「国民の利益ひいては国益を守り、増進させるために公私の役割分担を定め、国家と国民とが協力し合いながら共生社会をつくることを定めたルール」 としての側面も持つものであることをアピールしていくことが重要である。 さらに、このような憲法の法的な側面ばかりではなく、憲法という国の基本法が国民の行為規範として機能し、国民の精神 (ものの考え方) に与える影響についても考慮に入れながら、議論を続けていく必要があると考える。

   「各論」 の 「四、国民の権利及び義務」 の 「見直すべき規定」 より

「公共の福祉」 (現憲法12条、13条、22条、29条)を 「公共の利益」あるいは 「公益」 とすべきである。
婚姻・家族における両性平等の規定 (現憲法24条) は、家族や共同体の価値を重視する観点から見直すべきである。

   「各論」 の 「四、国民の権利及び義務」 の 「公共の責務 (義務)」 より

国の防衛及び非常事態における国民の協力義務の規定を設けるべきである。

  ── 近代的立憲主義からみると、問題である。
  「権利の保障が確保されず、権力の分立が規定されないすべての社会は、憲法をもつものではない」
    ── フランス人権宣言第16条

2、押し付け憲法論を思い出す。
   日本国憲法制定の経過
   1946年2月1日付の毎日新聞のスクープ記事によると、
   政府の憲法問題調査委員会試案は、君主主権でマッカーサーを驚愕させた。
      マッカーサー三原則 ?@天皇の地位 ?A戦争放棄 ?B封建制の廃止
      ホイットニーグループによるGHQ案→現行憲法の構造を形作った。
      当時の国際情勢

3、誰が押し付けと感じたか。何を。

4、明治憲法体制
  a 神権天皇制 ── 立憲君主制との違い
    政教不分離 ── 天皇の権力の源泉を神道のいう「神」においた。
    明治憲法の表現をみよ。
  b 宗教弾圧のすさまじさ
    大本教弾圧 信徒を3000人以上検挙し、多くの教団施設を破壊、没収した。
    ホーリネス教会 治安維持法と宗教団体法によって弾圧され、
      のちに日本基督教団 に参加して日本政府の戦争遂行に協力した。
    灯台社事件 天皇の神格性を否定して二度にわたって検挙され、社員の一斉逮捕、解散命令を受けた。
  c 言論の不自由
    治安維持法
      イ 小林多喜二の虐殺
      ロ 一般市民の抑圧
      ハ 岡林辰雄弁護士の経験
    治安警察法
      弁士中止の法律的根拠となった
  d 知る権利の抑圧
     1937年8月、桐生悠々は個人雑誌 「他山の石」 に 「時局ニ関スル記事取扱方ニ関スル件」 という 「その筋の」 文書で、 「唯新聞紙に送付されただけで」 どの新聞にも掲載されないものの内容を暴露した。
  反戦又ハ反軍的言説ヲ為シ或ハ軍民離間ヲ招来セシムルガ如キ事項 など3項

5、戦争に次ぐ戦争
  500万人の日本人、2500万人のアジア人の生命
  その具体例
  上原学徒兵の話 (きけ わだつみのこえ 第一エッセイ)
  マレーシア華人虐殺事件
  フィリピン人虐殺事件

6、立憲主義とは。
  人権を保障し、その保障のために権力を分立し、国家機構をその方向で整える考え方
  自民党による 「論点整理」 は近代的立憲主義の定義に適うものかどうか、が問題である。
  今後、憲法改正の議論が発展してゆく際に憲法、立憲主義をどう基本に置いていくか、が問題である。

参考文献
  「きけ わだつみのこえ」 日本戦没学生記念会編 岩波文庫
  「戦争責任」 家永三郎著 岩波書店
  「歴史のなかの憲法 (上)」 家永三郎著 東京大学出版会